江津の山あいから、旬を届ける。香の宮F&Aの有機野菜物語|つながるいわみ#3
2025.9.23 #つながるいわみ

江津市で、なぎの木テラスのサラダバーにも使用される新鮮な葉物野菜を育てている「香の宮F&A」。今回ご紹介するのは、その代表・大畑安夫(おおはたやすお)さん。元サラリーマンから農家へと転身し、有機農業のパイオニアとして地域に根ざして30年以上。野菜と向き合い、人を育て、次世代へつなぐ——その歩みと想いを伺いました。

食の仕事がしたかった。東京から江津へUターンした青年の決意

大畑さんの農業人生は、江津で始まりました。東京で10年ほど食品卸会社に勤めていた大畑さん。長男ということもあり、30代で地元にUターン。「食べ物に関わる仕事がしたい」という想いは変わらず、農業の道を志します。

「もともと農業の経験なんてなかった。けれど、どうせやるなら身体にも環境にもいい農業をしたいと思ったんです」

そう話す大畑さんが選んだのは、有機農業。 農薬や化学肥料に頼らず、安全でおいしい野菜を育てるこの農法。始めた直後は野菜の生育がうまくいかず、最初の3年は生活費を稼ぐことも難しかったが、それ以上の情熱を持って臨んできました。

 地域の仲間と立ち上げた「石見地方有機野菜の会」

農業未経験からのスタート。最初は邑南町(旧・石見町)や浜田市の先輩農家に弟子入りし、土づくりから学びます。のちに浜田の有機農家・佐々木さんとの出会いをきっかけに、共に地域で有機農業を推進していく中で、「石見地方有機野菜の会」を立ち上げることに。

「最初は5人くらいからのスタートでした。補助金や販売ルートの確保も、個人では難しかった。でも“組織”になれば、できることも広がる」

この会は現在も、江津市・浜田市を中心に有機農業を志す農家たちの基盤となり、全国有数の有機農業比率を誇る江津市の礎を築いてきました。

大畑さんたちの活動もあり、有機農業比率は、全国平均0.8%の10倍以上となる8.8%*。全国1000近い市区町村のうち12番目の比率となります。もちろん、江津市は島根県内で有機農業比率が最も高い市で、まさに「有機農業のパイオニア地域」といえます。


*データ:令和5年度における有機農業の推進状況調査(農林水産省実施)
https://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/yuuki/

葉物にこだわる理由。土地に合う野菜を知るということ

香の宮F&Aで育てられているのは、ほうれん草、小松菜、水菜、わさび菜、ルッコラ、山ほうれん草など、いわゆる“葉物野菜”。

「その土地ごとに合った野菜がある。この土地でできるものは何かを考えたとき、葉物が一番合っていた」

石見は、平地が少なく、山間地で日照時も限られ、決して農業をしやすい場所ではありません。その厳しい条件下でも、体に優しく美味しい『有機野菜』を育てることを考え、ハウスでの葉物野菜にたどり着きました。


「旬をちゃんと食べてほしい。
 冬場の葉物は、甘みも栄養価もぐっと増して本当に美味しいんです」

 自然の摂理と共に。自然を生かした虫との共存。

有機農業を続けていくうえで、最大の敵は、やはり“虫”。農薬を使えば簡単に殺せますが、大畑さんが育った時代は、環境公害が多く問題視されていた時代という背景もあり、農薬ではない形を求めました。

香の宮F&Aでは“虫を活かす”という考え方を実践しています。同じ害虫がつかない種類の野菜を交互に植えたり、天敵(カマキリ、テントウムシ、カエルなど)を意識的にハウス内に住まわせたり。

「農薬で殺してしまえば、天敵の虫たちもいなくなってしまう。すると、かえって害虫が増えることもあるんです」

夏場はハウスの温度を意図的に上げて、害虫や雑草の種も死滅させる“蒸し込み”という方法も採用。「自然環境をを生かして野菜を育てる」姿勢が随所に感じられます。

なぎの木テラスとの出会いと、つながりの広がり

香の宮F&Aの野菜は、なぎの木テラスのサラダバーでも大人気。特に冬場のほうれん草は、「葉が厚くて甘みが強い」、水菜は「シャキシャキ感が強くみずみずしい」と好評です。

「神楽の里 舞乃市からのご縁で、今もこうして継続して使っていただけるのは本当にありがたいです」

なぎの木テラスのように「観光客が野菜の味に驚いて帰っていく」という地域発信の場の存在には、嬉しさがあるといいます。

大畑さんの野菜は、なぎの木テラスの横に位置する道の駅「サンピコ江津」や関東エリアに展開する自然食品専門店「こだわりや」などでも購入可能です。

次世代へとつなぐ農業を

現在、香の宮F&Aでは社員・パート・アルバイト含め、20名近いスタッフが働いています。中には農業未経験から飛び込んできた若者も。

「これからの江津の農業を支えてくれる存在になってほしい」

大畑さん自身は第一線から少しずつ引き継ぎを始めつつ、「香の宮F&Aだけでなく、石見全体の農業が元気になるように」と、地域全体を見据えています。

「島根県でもトップの有機農業比率。もっとこれをPRして、地域の魅力にしていきたいですね」

江津の自然と、土と、気候に合った野菜を。人にも環境にも優しい“本当に美味しい”を届ける香の宮F&Aの野菜たち。

なぎの木テラスのサラダバーでぜひ大畑さんの野菜の味を、感じてみてください。葉物野菜は、これからの冬のシーズンが最もおいしい季節となります。

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