荒れた畑が、希望の緑へ。江津の自然と人が育む「奇跡の桑茶」|つながるいわみ#5
2025.12.16 #つながるいわみ

江の川がゆったりと流れる、島根県江津市桜江町。 この土地にはかつて、至るところに桑畑が広がり、「養蚕(ようさん)」の町として栄えた歴史がありました。 時代の流れとともに一度はその風景が失われかけましたが、今、新たな形でこの桑畑を守り、未来へつなごうとしている人々がいます。


今回の「つながるいわみ」は、「桑茶」の可能性を広げ続ける「桜江町桑茶生産組合」の古野利路(ふるの としみち)さんにお話を伺いました。

荒れた桑畑からの再出発

古野さんがこの地に関わるようになったのは2000年頃。きっかけは、お父様がリタイア後の移住先として桜江町を選び、桑の活用に取り組んでいたことでした。 その頃は、明治・大正期から外貨獲得のための基幹産業として栄えた養蚕業は衰退し、桑畑の多くは手入れされず荒れ果てていました。

「父が町長たちと話す中で、『このまま桑畑をなくしてしまうのはもったいない。桑を活用して何かできないか』という話が持ち上がったんです」

そこで注目されたのが、古い文献でも薬効が知られていた「桑の葉」をお茶として飲むこと。 しかし、当時の認知度はほぼゼロ。桑は、外貨獲得の要である「お蚕(かいこ)さま」の食事だったため、人々にとって食するものという意識には至っていなかったそうです。

「荒れた畑に残っていた桑の木は、何十年も放置されていたのに、青々とした葉を茂らせていたんです。その生命力を見て、『この土地には桑を育てる力がある』と確信しました」

「美味しい」から続けられる。こだわりの製法

桑茶といえば、「苦い」「健康には良いけど美味しくない」というイメージを持つ方もいるかもしれません。しかし、桜江町桑茶生産組合の桑茶を一口飲むと、そのイメージは覆されます。 香り高く、すっきりとしつつも、甘みがありとても飲みやすい桑茶です。

その秘密は、独自の製法にあります。 多くの桑茶が緑茶用の機械で作られる中、ここでは桑専用のラインを構築。 「美味しいから食事と一緒に飲みたくなる。それが結果として健康につながるんです」と古野さん。 特有の青臭さを消すための「低温ロースト」など、長年の研究でたどり着いた技術が、この飲みやすさを支えています。

江津の自然が育んだ奇跡の成分

 実は、桜江町の厳しい自然環境も、美味しい桑茶づくりには欠かせません。 寒暖差が激しく、時には江の川の霧や氾濫に見舞われるこの土地。植物にとっては過酷な環境ですが、そのストレスが逆に桑の成分を高めるのだそうです。

特に注目されているのが、桑特有の成分である「DNJを含むイミノシュガー」、島根県の桑の葉から発見された「Q3MG(ケルセチンマロニルグルコシド)」。

「デオキシノジリマイシン(DNJ)高含有桑葉エキスは食後の血糖値上昇を抑制する」*との研究結果があり、健康的なライフスタイルに注目されています。


※引用元:https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/tarc/012906.html


新成分「Q3MG」は、島根県産業技術センターと島根大学医学部の研究グループにより、血中LDL コレステロールの低下、大動脈の動脈硬化巣面積の縮小など桑の葉の効能について研究*を進められています。


※引用元:https://shimaneorganicfarm.com/info/q3mg/

「薬やサプリメントではなく、普段の食事と一緒に美味しく飲むお茶で体を整える。それが一番自然で続けやすいですよね」

実際、なぎの木テラスで桑茶を購入される方も多くはリピーターさん。続けやすい健康法なんです。

なぎの木テラスとのつながり

なぎの木テラスのカフェでは、この桑茶を使ったメニューが大人気。 「桑抹茶オレ」や「桑抹茶ロールケーキ」など、抹茶のような風味と鮮やかな緑色を活かしたスイーツは、お子様から年配の方まで幅広く愛されています。

「お子様にとっても、ノンカフェインでカルシウムや鉄分・食物繊維が豊富な桑茶は安心できる飲み物。給食のパンに使っていただいたこともあり、『美味しい!』と喜んでくれるのが何より嬉しいですね」

古野さんは、なぎの木テラスを通じて「桑茶」の新しい可能性を広げていきたいと語ります。 「これからは、お土産としてもっと手に取りやすい商品を一緒に開発したり、畑での収穫体験など、コト消費にもつなげていきたいですね。江津に来たら桑茶がある、そんな風景を作っていきたいです」

 100年後の桜江町のために

「桑の栽培を通じて、雇用の場を作り、若い人が安心して帰ってこられる地域にしたい」 古野さんの視線は、単なる商品開発にとどまらず、地域の未来を見据えています。

かつて蚕を育て、日本の産業を支えた桜江町の桑畑。 今は、人々の健康を支える「緑の宝石」として、再び輝き始めています。

なぎの木テラスで、その優しい味わいと、作り手の情熱に触れてみてください。 一杯の桑茶が、あなたの体と心、そして江津の自然とをつないでくれるはずです。

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