一本釣りに賭ける若き挑戦者、千珠丸|つながるいわみ#1
2025.6.17 つながるいわみ

なぎの木テラスがつながる、石見の人びと・事業者を紹介する連載「つながるいわみ」をスタート。記念すべき初回の今回、江津市の漁師・千珠丸(せんじゅまる)を運営する、豊 丈尚(ゆたか ひろなお)さんをご紹介します。

なぎの木キッチンで提供される、人気の海鮮丼。その主役である鮮魚たちは、実は千珠丸さんが丁寧に釣り上げ、届けているもの。もともと大阪の営業職だったという千珠丸の豊さんが、なぜ漁師に転身したのか。どんなこだわりを持って海と向き合っているのか。そこには、海とまっすぐに向き合い、人と人のつながりを大切にする一人の若き漁師の物語がありました。

営業マンから漁師へ。きっかけは一冊の漫画だった

豊さんが漁師を志したきっかけは、なんと『サラリーマン金太郎』。大阪で営業の仕事をしていた20代のある日、この作品を手に取り、主人公・金太郎が漁師として生きる姿に心を動かされたといいます。

「漁師として働くサラリーマン金太郎がすごくかっこよく、魅力的で、自分もこんな風に自然と向き合って働いてみたいって」

27歳のとき、島根県の隠岐諸島へIターン。まき網漁の仕事に飛び込みました。その後10年間のまき網漁師の経験を経て、奥様の地元である石見の江津市へ移住、令和6年5月に船を買い一本釣り漁師として独立。船の名前は「千珠丸(せんじゅまる)」と名付けました。

「“千”は壮大さ、“珠”は宝石のような美しさ。“丸”は船を表す言葉。」
まさに、壮大な海へ繰り出し、美しい魚を鮮度よく美しく保ち人々へ届ける、豊さんの漁師としての活動を象徴した船名です。

釣り方や鮮度へのこだわり

「網で大量に獲るより、一匹ずつ釣ることで、よりおいしく、より美しい魚をお客様にお届けできる」

千珠丸が行う漁は、ケンサキイカ、スルメイカ、アマダイ、真鯛、ブリ、サワラ、など、多岐にわたります。いずれも網ではなく針での釣りが中心。鮮度にとことんこだわり、釣ったイカは生きたままイケスに泳がし、箱に立てる直前まで生かしています。夏場は海水温が上がるため、長いホースを使い水深40メーターから汲み上げる冷たい海水を吸い上げて循環させ、イカを極力ストレスなく生かす工夫。魚は活締め、血抜きをし、おいしい魚をお客様に届ける。豊さんのこだわりを感じます。

「お客さんの『おいしかったよ』の声は、やっぱりうれしい」

“素人”からの挑戦。支え合う漁の世界

豊さんは、一本釣り漁業未経験でこの世界に飛び込みました。最初は釣り針の結び方すら分からないなか、多くの漁業関係者の方々から学んだといいます。

「ほんと、ゼロから。だけど、いろんな漁師さんと繋がって、いいとこ取りしながら自分のやり方を作ってきました」

今では夜釣りでイカ、朝には甘鯛、ひき縄漁シーズンになればサワラ釣りなどの釣りもこなす毎日。海があれ漁に出られない冬場でも、船の整備や仕掛け作りなど、休む暇はありません。

なぎの木テラスとの出会いが広げた可能性

千珠丸と、なぎの木テラスとの出会いは奥様がきっかけでした。スルメイカの一夜干しの自社商品化に向けて市役所に相談にしたところ、「なぎの木テラス」がリニューアルにあたり新しい仕入れ先を探していることを知り営業へ。

「『一度うちの魚、使ってみてください』と持ち込んだら、料理長さんが気に入ってくれたんです」

今では、海鮮丼などで千珠丸の魚がふんだんに使われるように。地元のレストランで自分の魚を必要としてくれていることや、江津市に貢献できることはなにより励みになっていると語ります。

漁師の仕事に込める思いと未来への展望

「漁師の仕事は、獲れなければ収入はゼロ。でも、その分やりがいは大きいです。全部自分次第。そのリスクも含めて、おもしろい」

現在は、スルメイカの一夜干しをはじめとする加工品の開発・販売にも挑戦中。奥様と二人三脚で、直接取引やSNS発信も積極的に行っています。

「なぎの木テラスみたいな場所があることで、自分の魚をもっとたくさんの人に届けられる。本当にありがたい存在です」

江津の海を、もっと知ってほしい

取材の最後に、江津のおすすめスポットを聞くと、豊さんはこう語ってくれました。

「星高山っていう山があって、うちの船からも見えるんです。夜になると工場の光と一緒にライトアップされてて、意外と幻想的なんですよ。河川敷から見る景色もきれいで、夕暮れ時に青春してる高校生を横目に出航してます(笑)」

自然と人、海とまち、そして漁師と食卓。さまざまな「つながり」を大切にする千珠丸の漁師、豊さんの姿に、これからの地域の可能性がにじみます。なぎの木キッチンで、ぜひ彼の魚だからこそ実現できる“おいしさ”を味わってみてください。

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